2014年6月15日日曜日

■ 向日比の散策    2014年3月〜9月


玉野市向日比は瀬戸内海に面した港町だ。集落の背後を取り囲む山が、両腕を伸ばす様に海に突き出し、二つの岬を形作っている。海を正面にして右手の岬には、大型船の出入りする銅の製錬場が立ち並び、左手の岬(明神鼻)からは瀬戸内海の景色を望める

活動の拠点となる明神鼻の小屋にたどり着くまでには、しばらく時間がかかった。


散策の第一歩は、集落から始まった。築年数が古く空き家も多い。急勾配な土地に重なるように建てられた様子は、瀬戸内海の島々の生活風景を思わせる。車を家の前に付けることが難しく、生活するには多少手間かもしれないが、それがかえって場所の特性となり魅力的な景観を作り出しているように思う。



散策は集落から明神鼻へと重ねられた。岬からは、対岸の四国や瀬戸大橋、日比・向日比の集落を一望できる。なかでも、地元では「おにぎり島」の愛称で親しまれている大槌島の端正な姿が印象的だ。この島には、大蛇退治の伝説が伝えられている。

岬の先端には、意図してそこに置かれたかのような大きな磐があり、その側に「お菊明神」の小さな石の祠がある。言い伝えによれば、妻を失い酒に溺れたある漁師が、娘のお菊を海に投げ入れた(あるいはお菊みずから身を投じたとも)という。お菊の哀話は盆踊りの口説きとして唄われているというから、今は祖霊と共に岬から集落を見守っているのだろうか。
外から来た人間にとって、まず魅せられたのは岬からの眺望だったが、地元の人にとって明神鼻はそれ以上の意味があるのだろう。